【オークス/特選・外厩リスト】Vマイルも「3外厩」の勢い止まず 外厩の“桜花賞馬”と在厩の“2歳女王”、外厩の重みが試されるか
坂路の家主 M
2025-05-22 17:30

先週の当コラムではノーザンファームの東西外厩(天栄、しがらき)とチャンピオンヒルズ利用馬に注目と述べたが、ヴィクトリアマイルは 1着アスコリピチェーノ(ノーザンファーム天栄) 2着クイーンズウォーク(ノーザンファームしがらき) 3着シランケド(チャンピオンヒルズ) と、この春のGIで優勝馬を送り出している3つの外厩施設の利用馬が上位を独占。GI出走馬ともなれば、「○○の外厩を使っているから」といった利用外厩先だけで好走を説明できるものではないことは十分承知はしているものの、改めて物事にはトレンドがあることに気付かされた。 とはいえ特定の外厩利用馬が好成績なのだから、その外厩が優秀なのは間違いない。より正しく言うなら、GIで好走するような馬を預けられる立ち位置にあり、なおかつリクエスト通り、あるいはそれ以上の調整を行うことができるレベルの外厩ということだろう。 昔から休養馬の調整先として外厩というものは存在した。ただ20年前のクラシック三冠馬ディープインパクトは、デビューから現役引退まで外厩に出されることはなかった。暑い夏は栗東トレセンではなく北海道で休養したものの、デビュー前に育成されたノーザンファーム早来ではなく札幌競馬場の出張馬房で過ごしていたほどだ。 当時から夏の休養をノーザンファームで過ごす馬はいた。またノーザンファームが携わった馬の外厩として山元トレーニングセンターやグリーンウッドトレーニングが存在しており、そこに放牧に出される馬もいた。だが、ディープインパクトは厩舎やオーナーの意向もあって、外厩ではなく厩舎(内厩)で調整され続けた。現在は日本一どころか世界トップクラスの生産育成牧場であるノーザンファームであっても、20年前は外厩にそこまでの信頼がなかったのである。 2010年にノーザンファームしがらきが開場し、数年後から利用馬の活躍が顕著になり始めた頃に関西のとある厩舎で聞いたエピソードを紹介しよう。 クラシックに参戦した馬を持つオーナーが調教師に次のようなリクエストしたのだ。 「この馬は将来が期待できるから、ノーザンファームしがらきへ放牧してくれ」 とはいえ、その馬はノーザンファームに何のゆかりもなく、オーナーもノーザンファームと特段懇意な関係にあるわけでもなかった。調教師がノーザンファーム側に問い合わせてみたものの、答えは当然ながら「No」。そのことを伝えると「(ノーザンファームが関与している)厩舎の別の馬はしがらきを利用しているのに、なぜ私の馬はダメなのか。もういい、この馬は転厩させる」と、激怒。他の厩舎に移籍の交渉をするなど大騒ぎとなったという。 このオーナーもノーザンファームしがらきの優秀さに気付いたまでは良かったものの、ノーザンファーム内部の組織で事情がない限り外部の馬の預託を受けられないという基本的なことは理解できなかったようである。ちなみに、その馬はそれまで通りの外厩を利用して後に重賞を制覇。またそのオーナーも保有馬から複数のオープン馬が誕生したという。いっぽうで調教師の進言もあってセレクトセールでノーザンファーム生産馬を購買するようになりノーザンファームの外厩を利用できる馬を所有しているものの、これまでに目立った活躍馬は出ていないそうだ。馬をはじめ、外厩や陣営など、取り巻く環境が合う合わないはあるだろう。はたまた運すらも影響するかもしれない――。 さて、今週はオークス。牝馬クラシックとあって、やはりノーザンファームの関連馬が中心となる。主な出走馬の外厩利用状況は次の通り。 【前走後外厩利用】 エリカエクスプレス(チャンピオンヒルズ) エンブロイダリー(ノーザンファーム天栄) パラディレーヌ(キャニオンファーム土山) ビップデイジー(ノーザンファームしがらき) ブラウンラチェット(ノーザンファーム天栄) リンクスティップ(ノーザンファームしがらき) レーゼドラマ(社台ファーム鈴鹿) 【在厩調整】 アルマヴェローチェ カムニャック ゴーソーファー サヴォンリンナ 注目すべきは桜花賞馬エンブロイダリーが定石通りにノーザンファーム天栄へ短期放牧に出たのに対し、2着で阪神JF勝ち馬のアルマヴェローチェは中5週ながら栗東トレセン在厩でオークスへ出走してきたことだ。このあたりは馬の状態や、厩舎やオーナーの意向も絡んできているのだろう。ちなみに桜花賞3着のリンクスティップと1番人気5着のエリカエクスプレスは前走後に外厩を利用していた。桜花賞から800mの距離延長や天候、馬場状態など他の波乱要素もある中、外厩利用の有無が結果にどう影響するかにも興味が湧くオークスである。
オーサープロフィール
関連リンク

【オークス/全頭診断】エンブロイダリーは「4.1.0.0」で鉄板級 逆転候補を探すなら”馬券内率80%”該当の伏兵
馬柱探偵 田原基成
YouTuberとしても活躍する馬柱探偵・田原基成のオークス出走馬全頭診断。今年は桜花賞馬エンブロイダリーに阪神JFを制したアルマヴェローチェの2強ムード。牝馬クラシック二冠目の有力馬をどのようにジャッジしたのか?
2025-05-22 18:10
【オークス/枠順】エンブロイダリーは単回収値200超の“勝率40%”に該当 リンクスティップらは「鞍上×枠」で怪しい雲行き
Winsight編集部
一見フラットに映るオークスの枠順成績。しかし、過去の人気馬を深掘りしてみると、好走率および回収値にくっきりと差が現れている。過去10年データをもとに、データ班が「枠順傾向」を探る。
2025-05-22 16:30
【優駿牝馬(オークス)/DATAピックアップ】“決め手”のある馬が台頭する傾向 「3-0-0-1」データ合致の有力馬に注目
Winsight編集部
5月25日開催の優駿牝馬(オークス)で過去10年の傾向から注目馬を紹介。データに基づく予測で、勝利の鍵を徹底分析!
2025-05-21 17:30
【トレセンのウマい話】安田記念参戦予定のアスコリピチェーノが臨む“ソングラインローテ” ノーザンFが確立する「新たな前哨戦の選択肢」
厩スポイラー
今年のヴィクトリアマイルは、アスコリピチェーノが優勝し、春のGIをつなぐ、1351ターフスプリントから連勝で重賞5勝目をマークした。そこから中2週で安田記念参戦を予定する同馬。このローテーションは2022年、23年とソングラインが使ったもの。一見、間隔が詰まり現代らしからぬローテに映るが……。注目が集まる“連勝ローテ”と、次なる舞台・安田記念への可能性について探る。
2025-05-21 16:30
【オークス/危険な人気馬】確率5割に抗う「勝率0%」のデータ群と、樫の舞台に不適合のレースぶり
石川豊
過去10年のオークスで、桜花賞馬の成績は【4.1.0.3】となり、5割の確率で2冠を成し遂げている。加えて、1番人気に支持されれば【3.1.0.0】でパーフェクト連対とデータ上は鉄板級の軸馬かもしれない。しかし……
2025-05-20 16:00
【パトロールビデオ班/青ランプ5月第3週】ヴィクトリアマイル・シランケド「スムーズに抜け出せれば」
Winsight編集部
Winsight編集部・パトロールビデオ班により、前週開催から次走以降の予想に役立つ情報をピックアップ。
2025-05-20 16:00「外厩リスト」の新着記事

【オークス/特選・外厩リスト】Vマイルも「3外厩」の勢い止まず 外厩の“桜花賞馬”と在厩の“2歳女王”、外厩の重みが試されるか
坂路の家主 M
今春のGI戦線はノーザンファーム天栄・しがらき、そしてチャンピオンヒルズ、3つの外厩利用馬が活躍し、勢いは増すばかり。かつてはディープインパクトでさえ頼らなかった“外厩”という存在が、今や勝ち馬の背後にある“当たり前”となってきている。今週行われるのは3歳牝馬のGI、名牝への一歩となるオークス。気になる外厩利用をリストアップする。
2025-05-22 17:30
【ヴィクトリアマイル/特選・外厩リスト】別格の存在へ地位を固める“チャンピオンヒルズ” 「今週も波乱の目となるか」
坂路の家主 M
GI7戦中3勝――静かに勢力を伸ばす「チャンピオンヒルズ」。 NHKマイルCを制したパンジャタワーの勝利は、同外厩の存在感を改めて印象づける結果となった。今週行われるヴィクトリアマイルは“荒れるGI”としても名高い古馬牝馬のマイル女王決定戦。気になる外厩利用をリストアップする。
2025-05-15 17:30
【NHKマイルC/特選・外厩リスト】レース日程変更による外厩利用の“変化と可能性” 今春注目・大規模育成場利用の出走馬は?
坂路の家主 M
春の天皇賞は4歳馬たちが独占。同週に行われた京王杯SCでは施行時期の変更により、外厩調整の傾向にも変化が起きていた。今年はレース日程変更がしばしば行われており、この変化は見逃せない。また今週開催のNHKマイルC出走各馬の外厩利用をリストアップする。
2025-05-08 16:30
【特選・外厩リスト】社台ファーム・外厩戦略の変革期? 3拠点の役割から読み解く「体制の現在地と未来図」
坂路の家主 M
「外厩」の選択が勝敗を分ける時代――。社台ファームが関与する3つの外厩に注目し、その利用背景と設備を紹介。昨年オープンのNEW外厩施設によって、社台ファームは新たな外厩戦略の動きを見せつつある。春の天皇賞にも外厩利用に変化をつけて出走する馬が……。
2025-05-01 17:30
【特選・外厩リスト】春GI前半戦で見えた“牙城を崩す” 開場5年目の大規模育成場
坂路の家主 M
春のGI前半戦を制した5頭の優勝馬。その背後には、“ある外厩”の存在があった――。ノーザンファームの圧倒的支配に割って入る「新勢力」の動きに注目が集まる。今回の当コラムでは外厩の基礎知識として、ここまでの春のGI5戦での優勝馬とその利用外厩をまとめる。
2025-04-24 12:00連載コラム
お気に入り数ランキング
連載コラム記事
いいね数ランキング

【ヴィクトリアマイル/穴ライズ】近2戦は「度外視レベル」の敗戦 課題克服の気配漂う想定“10人気”前後に一発あり
山田剛(Winsight Producer)
ゲートさえ克服できれば、過去10年で最多5勝を挙げる3枠から流れに乗り、馬券内突入の可能性はゼロではない。一気の人気落ちが濃厚のここで一発ありと見た。

【ヴィクトリアマイル/全頭診断】アスコリピチェーノは馬場次第で鉄板級か 伏兵クリスマスパレードに”馬券内率75%”
馬柱探偵 田原基成
YouTuberとしても活躍する馬柱探偵・田原基成のヴィクトリアマイル出走馬全頭診断。今年は4歳世代のGI馬アスコリピチェーノにステレンボッシュ、1勝馬ながらボンドガールも人気上位想定。大波乱のNHKマイルCから1週間、牝馬マイルGIをどのようにジャッジしたのか?

【ヴィクトリアマイル/特選・外厩リスト】別格の存在へ地位を固める“チャンピオンヒルズ” 「今週も波乱の目となるか」
坂路の家主 M
GI7戦中3勝――静かに勢力を伸ばす「チャンピオンヒルズ」。 NHKマイルCを制したパンジャタワーの勝利は、同外厩の存在感を改めて印象づける結果となった。今週行われるヴィクトリアマイルは“荒れるGI”としても名高い古馬牝馬のマイル女王決定戦。気になる外厩利用をリストアップする。