【特選・外厩リスト】社台ファーム・外厩戦略の変革期? 3拠点の役割から読み解く「体制の現在地と未来図」
坂路の家主 M
2025-05-01 17:30

春のGIシリーズの中休みとなった先週は、香港で国際競走3レースが開催された。日本からエイシンフェンサー、サトノレーヴ、ダノンマッキンリー、ルガルの4頭が出走したチェアマンズスプリントプライズは地元香港のカーインライジングが制し、日本勢ではサトノレーヴが2着。またチャンピオンズマイルは地元のレッドライオンが勝ち、日本から参戦のガイアフォースは9着であった。 そしてメインのクイーンエリザベス2世Cでは2年前の日本ダービー馬タスティエーラが1年11か月ぶりの勝利でふたつ目のGIタイトルを手にし、2着には3年連続でこのレース2着となるプログノーシスが入り日本馬によるワン・ツーを達成。いっぽうで2年前の牝馬三冠馬リバティアイランドは最後の直線で左前脚を故障し競走中止。左前脚種子骨靱帯の内側と外側の断裂と球節部の亜脱臼による予後不良との診断から、安楽死の処分となった。 事故のインパクトのほうが大きい結果となってしまったが、ダービー馬が久々に勝利。しかも日本馬としてはラヴズオンリーユー以来4年ぶりのクイーンエリザベス2世C制覇で、同じくラヴズオンリーユーの2021年香港C以来となる香港GI優勝を果たしたことは喜ばしいことである。 今回の日本馬上位勢の利用外厩を確認すると、サトノレーヴはチャンピオンヒルズ、タスティエーラはノーザンファームしがらき、プログノーシスは社台ファーム鈴鹿であった。タスティエーラは関東馬であるが、ノーザンファームの関西馬が拠点とするノーザンファームしがらきを利用。これは同厩のサトノレーヴが栗東トレセンから車で40分という滋賀県のチャンピオンヒルズを利用しているのと同じで、厩舎の方針によるもの。またプログノーシスは直近こそ社台ファーム鈴鹿を利用したものの、前走金鯱賞前までは主に山元トレーニングセンターを利用していた。 基本的に生産牧場、育成を担当した牧場、所有者、東西の所属先といった属性により外厩利用にはパターンがあるものの、前出の3頭はイレギュラーな外厩利用馬であった。前回のコラムではノーザンファーム天栄、ノーザンファームしがらき、チャンピオンヒルズについて概要を説明したので、今回は社台ファームが関与する外厩について紹介する。 <山元トレーニングセンター 宮城県> 社台グループはもともと千葉県が発祥地で、北海道に生産、育成の拠点を移してからもデビュー前や休養中の馬を調整する牧場を有していた。その後、本格的な調教が可能な外厩機能を有した牧場を設置すべく、1992年にオープンさせたのが山元トレーニングセンターである。今から30年以上前の開設は、社台グループの先見性を表れともいえる。 その後は社台グループの拡大に伴い、ノーザンファームが東西に自前の外厩を設置。一方で追分ファームが育成調教を開始したことで、現在は社台ファームと追分ファームが関与する馬が利用する外厩となっている。2020年には坂路が900mに延長されるなど、施設改良も進んでいる。なお、所在する宮城県山元町は2011年の東日本大震災時に大きな被害を被ったが、同所は高台に位置していたことで津波の直接的な被害はなく、なおかつ自家発電機の稼働により在厩馬への影響も最小限に抑えられたという。 <グリーンウッドトレーニング 滋賀県> 2001年に開業した外厩で、社台グループの設置ではないものの社台ファームではスタッフが常駐している。ノーザンファームしがらきの開設まではノーザンファームのスタッフも常駐して関西馬用の外厩として機能していた。 近年開業した最新鋭の設備を持った外厩に比べると設備的にはやや劣るものの、栗東トレセンからも近く蓄積されたノウハウ等からも栗東の厩舎からの信頼も厚く、社台グループ、社台グループ以外にかかわらず活躍馬の外厩として利用されている。 <社台ファーム鈴鹿 三重県> 社台ファームが関西の外厩拠点として2024年に新規オープン。直線1100mで高低差38m、メイン勾配3.5%のウッドチップ坂路と1周800mの周回コースを有し、馬房にはミストも完備されている。高速道路のインターチェンジにも近く、栗東への輸送時間も1時間以内となっている。 最終的には200馬房まで増設の予定だが、昨年のオープン時は50馬房でのスタート。そのため社台ファームの関西馬の外厩利用は、山元トレーニングセンターとグリーンウッドトレーニングの2場と併用している。厩舎は順次工事を行っているものの、現在の課題は増設後に必要なスタッフ募集とのこと。 社台ファームの関東馬の外厩利用は基本的に山元トレーニングセンターのみだが、関西馬は3か所の外厩を利用している。同じ馬でも放牧期間や目的により利用外厩が変わることもあり、パターン化はされていない。ただ、数年後に社台ファーム鈴鹿の1か所に集約された際に、変化があるのか、どういった影響が出るか、注視しておきたい。 天皇賞・春への社台ファーム出走は関東馬のアラタと関西馬のショウナンラプンタの2頭。ショウナンラプンタは山元トレーニングセンターを利用することが多く、前走阪神大賞典の時も利用していたが、前走後、今回の短期放牧には社台ファーム鈴鹿を利用していた。大舞台へ向けた社台ファーム鈴鹿の利用はプラスと出るのか注目である。
オーサープロフィール
関連リンク

【天皇賞春/過去10年DATA】「勝ち馬は3番人気以内もヒモ荒れ警戒」
Winsight編集部
今回で171回を数える伝統のGI、天皇賞・春。ここでは予想に役立つ過去10年DATAをお届け。今回のプラスワンは馬齢別データ
2025-04-28 16:00
【パトロールビデオ班/青ランプ4月第4週】フローラSタイセイプランセス「スムーズなら権利取りあった」
Winsight編集部
Winsight編集部・パトロールビデオ班により、前週開催から次走以降の予想に役立つ情報をピックアップ。
2025-04-29 16:00
【天皇賞春/危険な人気馬】人気一角に血統&ローテのWパンチ “不穏4歳馬”の法則+「0.1.1.16」で妙味なし
石川豊
今週は春の古馬長距離王決定戦、第171回天皇賞・春(GI、芝3200m)が京都競馬場で行われる。特別登録馬のなかでは、一昨年の覇者ジャスティンパレス、昨年の宝塚記念を制したブローザホーンがGI馬に該当。これに対抗するのは阪神大賞典を制したサンライズアース、日経賞を勝ったマイネルエンペラー、海外のレッドシーターフHを制したビザンチンドリームといった重賞ウイナーたちにショウナンラプンタ、ハヤテノフクノスケなど勢いのある4歳勢だ。そんな中、今回の「危険な人気馬」の標的となった馬は?
2025-04-29 18:00
【天皇賞春/DATAピックアップ】「馬券内率88.9%」にプラスα盛り盛りの軸推奨馬
Winsight編集部
5月4日開催の天皇賞・春で過去10年の傾向から注目馬を紹介。データに基づく予測で、勝利の鍵を徹底分析!
2025-04-30 16:00
【トレセンのウマい話】「大レースと条件戦で狙い方を変えるべし」 リーディングから垣間見える厩舎カラーと馬券の付き合い方
厩スポイラー
騎手界ではモレイラが短期免許を終え、ルメールが復調。一方、厩舎のリーディング争いに目を向けると──。着実に勝ち星を積み重ねる厩舎、大舞台を狙うトップステーブル、各厩舎カラーが浮き彫りになってきた。春のGI7連戦を前に、今知っておきたい厩舎事情とは? 馬券に役立つヒントを探る。
2025-04-30 16:15「外厩リスト」の新着記事

【特選・外厩リスト】社台ファーム・外厩戦略の変革期? 3拠点の役割から読み解く「体制の現在地と未来図」
坂路の家主 M
「外厩」の選択が勝敗を分ける時代――。社台ファームが関与する3つの外厩に注目し、その利用背景と設備を紹介。昨年オープンのNEW外厩施設によって、社台ファームは新たな外厩戦略の動きを見せつつある。春の天皇賞にも外厩利用に変化をつけて出走する馬が……。
2025-05-01 17:30
【特選・外厩リスト】春GI前半戦で見えた“牙城を崩す” 開場5年目の大規模育成場
坂路の家主 M
春のGI前半戦を制した5頭の優勝馬。その背後には、“ある外厩”の存在があった――。ノーザンファームの圧倒的支配に割って入る「新勢力」の動きに注目が集まる。今回の当コラムでは外厩の基礎知識として、ここまでの春のGI5戦での優勝馬とその利用外厩をまとめる。
2025-04-24 12:00連載コラム
お気に入り数ランキング
連載コラム記事
いいね数ランキング

【皐月賞/危険な人気馬】想定3人気内を“消し” シンエンペラーも馬券外の「0.0.0.9」全滅データ該当
石川豊
競馬界には“セリでの高額馬は走らない”との定説があるが、これまでのGI馬で、歴代落札価格が1位なのは19年菊花賞、21年天皇賞・春を制したワールドプレミア(2億5920万円・税込)。ただ、取引価格が1億超えの馬で皐月賞を制した例は皆無だ。果たして2億超えのエリキングがクラシックを制するまでに至るだろうか。

【皐月賞/穴ライズ】上位3人気独占は「過去10年ゼロ」 盲点になりやすい条件にある、前走惜敗の単勝オッズ“2桁”想定
山田剛(Winsight Producer)
過去10年、前走・弥生賞組は【0.5.2.32】。2010年のヴィクトワールピサ以来、勝ち星から遠ざかるが、10年中7年で好走馬を輩出し2012年の8番人気タイトルホルダーから昨年の7番人気コスモキュランダまで4年連続で馬券内を確保。前受けで弥生賞好走の馬が皐月賞で連続するケースが多く、同馬もこの条件にマッチする。

【皐月賞/全頭診断】クロワデュノールは「2.1.0.0」で盤石か 高速馬場なら“ソダシ越え”想定10人気以下に穴妙味
馬柱探偵 田原基成
馬柱探偵・田原基成による皐月賞の出走馬全18頭診断。クロワデュノール1強ムードが漂うメンバー構成にあって、サトノシャイニング、エリキング、ジョバンニ、ファウストラーゼンら各路線から臨むライバルも虎視眈々。有力馬をどのようにジャッジしたのか?